INTERVIEW シスコシステムズ合同会社様

海外との無線LAN活用の違いから見る 企業における無線LANの現状と今後の展開

近年、企業などの組織では、無線機能を搭載した機器の普及とともに、無線LANの導入が本格化しています。会議室などへの部分的な導入を経て全社的な導入へと進み、存在感を増している無線LANの現状について、世界最大のネットワーク機器メーカーであるシスコシステムズのご担当者様にお話を伺いました。
田村 康一 氏

シスコシステムズ合同会社
エンタープライズネットワーキング事業
ユニファイドアクセス部
部長
田村 康一

大金 日出夫 氏

シスコシステムズ合同会社
エンタープライズネットワーキング事業
ユニファイドアクセス部
シニアセールススペシャリスト
大金 日出夫

海外ではコンシューマ向けの無線LANサービスが普及しています

日本と海外では、無線LANの導入状況に違いがあるのでしょうか?

数年前まで、日本の無線LAN環境は海外に比べ遅れていました。しかし、近年、日本の企業で使用されているPC・タブレットなどの端末や無線LAN機器は、海外と同じものが使われるようになり、一気に世界へ追いつきました。日本でも無線LANを基本としたネットワークの運用・整備が始まっていますが、海外での無線LANの活用はさらに進化しており、企業内だけでなくスマートフォンやタブレット端末利用時のコンシューマ向けサービスにも活用され始めています。

その一例として、ショッピングモールなどの商業施設内での位置情報サービスがあります。位置情報はGPS(Global Positioning System)などでもわかるのですが、施設内に入ってしまうとGPSは使えなくなります。そこで、ショッピングモールなどの大型商業施設内部で使える専用のアプリケーションを使って、自分の現在地から施設内の行きたいショップまでのルートをスマートフォンやタブレット端末で検索できるようになっています。

そのほかにも、アメリカのプロバスケットボールリーグ、NBAの一部の会場では、会場内に映し出される大型スクリーンの映像以外に、スマートフォンやタブレット端末で自分が見たいアングルからの映像を見られるサービスを提供しています。後方座席の観客は、コートから離れているので試合状況が見えづらく、試合中にスクリーンの映像を確認することがたびたびあります。しかし、それでは自分が見たいアングルからは見られないため、自由にアングルを選べるこのサービスが好評を得ているようです。また、専用のアプリケーションを使って、ドリンクなどを事前にオーダーできるようになっていて、ブレイクタイムにフードコーナーへ行けば、注文しておいたドリンクやフードを待たずに受け取れるといったサービスもあります。海外では同様のシステムが稼働している施設が増加しており、すでに普及し始めていますが、日本では西武ドームでサービスの一部が提供されているだけです。残念ながら、日本国内では今のところコンシューマ向けには無線LANを活用したサービスは普及していません。

日本の企業に、海外のコンシューマ向け無線LANサービスの事例を紹介すると、必ず投資効果や日本での導入事例について質問を受けます。日本の企業でも興味は持たれるのですが、どの程度の投資効果があるのかが明確にならないうちは日本で採用されるのは難しいと思います。海外では、アメリカ・メジャーリーグのニューヨーク・ヤンキースなど資金力のある企業が、投資効果よりも「今後のサービスとして面白い」という理由で導入することが多く、日本の企業にとっては参考にならないようです。今後、日本国内での成功事例ができると、コンシューマ向けのサービスは一気に広がっていくと思います。

そのほか、海外で無線LANの活用が進んでいる事例にはどういったものがありますか?

海外では、工場や病院でも無線LANの活用が進んでいます。病院で使われている医療機器には無線のチップが入っているものが多くあり、LANケーブルを接続しなくても、医療機器からPCへデータが送られるようになっています。病院にはポータブルな計測器も多数あります。それらは、持ち運びが容易なことから院内のさまざまな場所で使われ、最後に使用した場所がわからなくなることも多いそうです。紛失などによって所在不明となり、必要なときに医療機器が使えなくなるケースが発生しています。当社の無線LANシステムでは、Wi-FiタグやWi-Fiチップが入っている医療機器を検知して、おおよその場所を特定できる仕組みがあり、医療機器の紛失防止にもお役立ていただいています。導入による年間のコスト削減効果がかなりの額となるため、アメリカでは医療機器の位置情報がわかる専用アプリケーションも多く開発されています。まだ、日本ではアメリカと同様の活用は始まっていませんが、病院への無線LANアクセスポイント(AP)の導入は、近年非常に増えています。日本の病院でも医療情報システムのインフラとして、無線LANを導入する流れになってきていると感じています。

さらに海外の病院では、人を管理するシステムにも無線LANの活用が始まっています。元は、急患などの緊急時に、病院の近くにいる医師を探して呼び出すために導入されたものですが、経営者側の導入目的には勤務実態の把握もありました。病院の場合、医師や看護師だけでなく、多くの職員が呼び出し用のPHS(Personal Handyphone System)や携帯電話を常に所持していますので、そこに業務管理用のアプリケーションを入れることで、勤務実態が容易に把握できるようになり、便利になったと感じられているようです。

同様の使い方は、日本でも普及していくのでしょうか?

最新のテクノロジーを紹介しているシスコシステムズ様のショールームのデモエリア。
専任のデモンストレータによるデモも実施されている。

海外の病院でのPHSや携帯電話の使われ方が、日本の病院にそのまま当てはまるわけではありませんが、ほかの用途については可能性があると思います。

私どもやほかの企業向け無線LAN機器メーカーのAPは、センサー機能を使用することで、同様の位置情報サービスを実現できますが、ユーザーが使用するアプリケーションの部分は別途作成が必要です。日本のソフトウェアメーカーに伺うと「いずれ日本もそういう方向になっていくだろう」と言われますが、現時点ではまだ本格的にアプリケーションの開発に着手されるという展開にはなっていません。

そこで、私どもではこれらアプリケーションを比較的容易に開発いただける、API(Application Programming Interface)をご用意しています。電車や徒歩でのルート検索などの総合ナビゲーションサービスを提供するある会社では、GPSコンテンツなどで位置情報活用のノウハウを持っていたため、約2週間でスマートフォン向けのコンテンツや地図を完成させていました。もちろん最初は時間がかかると思いますが、コツをつかめば簡単に展開できるようになると思いますので、こうしたアプリケーションが市場に出回るようになると、日本でも無線LANの活用はさらに進んでいくと思います。

近年、日本の企業でも無線LANが普及した要因は何でしょうか?

田村 康一氏

スマートフォンやタブレット端末というトレンドもありましたが、一番の要因はLANケーブルのポート(挿入口)がないノートPCの機種が増えたことだと思います。

もう1つは、コードレス内線電話として使われていたPHSに代わって、スマートフォンを内線電話として使用する企業が増えてきたことです。PHSの導入から10年以上が経過して、機器の入れ替えが発生したタイミングで電話システムの刷新が行われ、スマートフォンが内線電話としても活用され始めています。このため、最近では無線LAN整備を行う際に、音声通信も考慮した設計が行われるようになっています。

企業で無線LANがブレークし始めたのは、2009年ごろです。無線LANの規格にIEEE802.11nが登場し、通信速度などのパフォーマンスが改善されたことが、きっかけになっているのではないでしょうか。現在では、ほとんどの企業で無線LANが導入されていて、担当者が現在検討しているのは、いかに楽に運用できるかという観点に移っています。

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