オンプレミスの重要性を把握しているからできる
効果的なハイブリッドクラウドの提供と
お客様との共創で実現させるDX

このコーナーでは、クラウドベンダー各社にサービスの特長や導入のメリットについてお話を伺います。
第3回は日本アイ・ビー・エム株式会社様にご協力いただきました。

管理担当者の負荷軽減を目指して
業種に特化したクラウドサービスを提供

貴社のこれまでのあゆみについて、ご紹介をお願いします。

安田 智有
日本アイ・ビー・エム株式会社
クラウド・プラットフォーム
シニアアーキテクト
テクニカルセールス部長

まだコンピューターが生まれていない1911年、タイムレコーダーや計量器、パンチカードシステムを作っていた会社の合併により、ニューヨーク州に会社を設立したことが当社の始まりで、すでに創業から110年以上が経過しています。日本法人も1937年の創設から80年以上たちました。創業当時は、選挙の投票用紙を集計する機械などを作っていましたが、1952年に発表したIBM初の商用科学技術計算機「IBM 701」以降、コンピューターのメーカーとして規模を拡大していきます。1964年に発売した汎用コンピューター「IBM System/360」の爆発的なヒットをはじめ、多くの企業にIBMのコンピューターが導入されたことで、2000年以前は「IBM=コンピューター企業」というイメージを持たれていた方が多かったと思います。IBMのコンピューターは、1969年に月面着陸を果たしたアポロ11号の月面までの軌道計算を行うなど、歴史的なプロジェクトにも参加。長年事業の中心的な役割を果たしていました。また、1981年に発売し、パソコンが普及するきっかけにもなった「IBM PC」には「MS-DOS」を搭載していましたが、このOSを開発したマイクロソフト社のその後の発展は、皆さんご存じのとおりです。

近年は、AIの「IBM Watson」が米国のクイズ王に勝利するなど、従来の事業形態から脱却し、AIとクラウドを事業の中心とする方針を表明しています。もはやZ世代くらいの年代の方は、IBMがパソコンのメーカーだったことをご存じないかもしれません。

「IBM Cloud」の特長についてお聞かせください。

「IBM Cloud」のサービスには、セキュリティやコンプライアンスを重視した「Secure and Compliant」、業種に特化した「Enterprise Grade」、どこでも動くオープンな仕組み「Open Hybrid Cloud」という3つのコンセプトがあります。セキュリティに関して特徴的なのは、米国連邦政府が開発した暗号モジュールのセキュリティ要件FIPS 140-2のレベル4に対応したサービス「IBM Cloud Hyper Protect Crypto Services」を提供していることです。ほとんどのクラウドベンダーはレベル3までの対応なので、特に高いレベルのセキュリティが求められる金融機関など、より強固な暗号化技術を重視されるお客様に選ばれています。レベル4の暗号化は鍵だけでは復号化することができませんが、レベル3までの場合、もしサービス運用者の中に悪意を持った人がいれば、鍵を抜かれ復号化されてしまうリスクが残ります。もちろん、当社を含めたクラウドベンダー各社は、サービス運用者の中に万が一悪意を持った行為をしようとする者がいても実行できないよう、運用ルールやさまざまな規則を設けています。IBMでは、さらに上の安心を求められるお客様の選択肢の1つとなれるよう提供していますが、レベル4に対応したクラウドサービスを提供しているのは、今のところ当社だけです。オンプレミスでは国防や軍事関係のデータを守るために使われるレベルのテクノロジーで、以前はIBMのメインフレームを購入いただいたお客様でなければ利用いただけませんでしたが、今ではクラウドサービスとしてご提供できるようになりました。

「IBM Cloud」3つの強み

また、業種に特化することで、運用管理を行うご担当者の負荷軽減を目指しています。同じ業種であれば、コンプライアンスやセキュリティポリシーの設定も同じパターンの場合が多いとわかっていますので、業種別のフレームワークが用意されていれば、お客様の設定は異なる部分の変更だけで済みます。そこで、まずは金融業向けのサービスを2020年にリリースしました。今後はさらに、通信、医療、行政などの業種向けフレームワークの開発を進めることを表明するとともに、順次すべての業種に広げていく方針も打ち出しています。

もう1つ、オープンなテクノロジーはDX(Digital Transformation)を進めていくためにも重要なポイントです。オンプレミス環境では、多くの企業・組織が特定のベンダーのシステム上でなければ使えないサービスを選ぶ傾向が強かったと思います。これまではクラウドでも同様だったかもしれませんが、これからのシステム選定はより良い環境にいつでも移行できることを念頭に、オープンシステムを重視していただきたいと思っています。今後、特定のベンダーでなければ使えないサービスはなくなっていく方向にありますし、IBMでもお客様のニーズにお応えできるサービスのご提供に注力していきます。

クラウド事業の戦略として、ハイブリッドを打ち出されている理由についてお聞かせください。

クラウドベンダーの中には、業務環境のすべてをクラウドへ移行することを推奨されている場合もあります。しかし、IBMは長い間オンプレミス環境向けのハードウェアやサービスを提供してきた経験から、実際にはオンプレミスで運用した方が効率のいいシステムやデータがあることをわかっています。オンプレミスの重要性を認識しているからこそ、オンプレミスとクラウドのハイブリッド環境の柔軟な運用をサポートするソリューションをご提供できると自負しています。もちろん、自社でサーバールームの維持・管理を行うことが難しいとご相談いただけばクラウドへの全面移行をご提案しますし、オンプレミスを残す選択をされた場合にも、機密性の検討が必要ないデータがあれば、処理スピードの向上を目的として部分的なクラウド導入をお勧めします。IBMは、お客様の状況に応じて効果的なハイブリッドクラウドをご提案しています。

また、データの処理効率からオンプレミス環境で「IBM Cloud」の利用を希望されるお客様もいらっしゃいます。そこで、2021年3月にオンプレミス環境で「IBM Cloud」を利用いただける分散クラウドサービス「IBM Cloud Satellite」をリリースしました。日本国内に設置しているIBMのデータセンターは、東京・大阪の2か所のリージョン内にありますが、「IBM Cloud Satellite」であれば北海道や九州など地理的にどちらからも離れているお客様も、距離を気にせずほぼリアルタイムにサービスを利用していただけます。分散クラウドは、クラウドベンダー各社がサービスを打ち出していますし、IT分野を中心とした調査を行う企業が今後のITのトレンドになると予測していることから、今後、取り入れる企業・組織の増加が予想されます。「IBM Cloud Satellite」は、RedHat OpenShiftの環境があれば「IBM Cloud」のサービスをオンプレミスにインストールできますし、他社のパブリッククラウド上で「IBM Cloud」のサービスを利用することもできます。また、「IBM Watson」などIBMのサービスと自社で開発したアプリケーションを組み合わせて、「IBM Cloud」での一元管理も可能です。

大きな運用変更なしで、オンプレミスからクラウドへ移行できるサービスについてお聞かせください。

VMwareで仮想環境を構築されているお客様が、オンプレミスの環境をクラウドへ移行するためのサービス「VMware on IBM Cloud」をご提供しています。VMwareはPCを仮想化するためのソフトウェア、ハイパーバイザーの日本国内でのシェアを約8割も獲得しているため、「VMware on IBM Cloud」は多くのお客様に利便性を感じていただけるサービスだと思います。オンプレミスの仮想環境をそのままクラウドに移行できるだけでなく、テスト環境の構築にも活用できます。オンプレミスで物理的な容量不足が発生した際には、クラウド内の仮想環境を一時的に使用するなどさまざまな用途での利用が可能です。

また珍しいと言われるのが、多くの管理権限をお客様にお渡ししていることです。オンプレミス環境ではハードウェアからソフトウェアまで、システムに関わる対応のほとんどを企業・組織のシステムご担当者が担われていますが、パブリッククラウドの場合、管理者権限が必要な設定の多くはクラウドベンダーでなければ対応できません。通信速度が遅くなればコマンドを使って自分たちでトラブルシューティングを実行されるのもオンプレミスでは当たり前だと思いますが、クラウドサービスの場合はベンダーが修復してくれるのを待つしかありません。ベンダーからの報告がなければ状況がまったくわからないため、もどかしく感じたことのある方もいらっしゃるのではないでしょうか。もちろん「IBM Cloud」も、データセンターの物理サーバーを直接触ることはできませんが、管理者権限を使ってオンプレミスと同じように管理できる項目が多く、パブリッククラウドのサービスを利用しているお客様が感じられる“直接触れない”もどかしさは他社のサービスに比べて少ないと思います。オンプレミスのテクノロジーに触れてきたシステムご担当者にとって、リモートでの電源ON / OFFへの対応など、これまでとほぼ同じように管理できることは「IBM Cloud」を利用するメリットと感じていただけるのではないでしょうか。

クラウドとともに強化されているAIへの取り組みについてお聞かせください。

IBMのAI「IBM Watson」は、2006年に開発がスタートしました。当初話題になったのは海外での事例でしたが、2016年には東大病院での事例が公開され注目を集めます。膨大な量の医学論文を「IBM Watson」に読み込ませ、診断が難しいタイプの白血病患者の治療に助言した事例です。「IBM Watson」の助言で治療法が変更された結果、それまでの半年間で治療の成果が見られなかった患者が、数か月後には退院できるまでに回復したことが大きく報道されました。

「IBM Watson」がアメリカのクイズ王に勝利して話題になった2011年ごろ、AIはまだ目的のために使うのではなく、AIを使うこと自体が目的になっていました。今では新規事業の立ち上げなどAIが事業を支えている事例が増えています。ある調査では、すでに8割の企業でAIをビジネスに利活用しているという結果が報告され、今後はAIを使わない業務プロセスの方が珍しい時代になると予想しています。そのとき「IBM Watsonって昔は良かったのに、最近は使えなくなった」と言われないよう、優れた機能と使いやすさの追究を続けていくことが私どもの使命です。

IBMは、企業がビジネスにAIを取り入れる場合、利便性だけでなくそのAIが公正な判定をしているか、何らかの評価が必要だと考えています。例えば、画像解析で使われるAIの性能は学習を重ねていかなければ向上しないため、大量の学習用データをそろえてそこに映っているのが建物なのか人間や動物、植物なのかを判定する能力を高めていきます。公正な判定には、例えば基となるデータが偏りなく収集されていることが重要です。よって教育用のデータとして適切だったかをチェックする必要があります。これを人間が毎回詳細に確認するのは大変なので、トレーニングしたデータやモデルをインプットして、それが公正に判断できるものか(偏りなく判断できるか)を数値化し判定できるサービスを用意しています。AIだからというブラックボックスが許される、ということはあってはならない、とIBMは考えているのです。

DXにはオープンシステムを選ぶことが重要とのことですが、DXのために提供されているサービスがありましたらご紹介ください。

DXに必要な技術や知見、人材、ソフトウェアやハードウェアなどをワンストップで提供し、お客様とともに共創していくサービスとして「IBM Garage」をご提供しています。お客様が何をどこから始めていいかわからない場合には、課題を抽出するところから一緒に対応します。また、「IBM Garage」はさまざまな粒度のサービスがそろっている「IBM Cloud」とベストプラクティスなサービスで、AIやアナリティクスなど最先端のテクノロジーの活用を見据えた実証などにも対応できるため、DXによる新規ビジネスの立ち上げもお手伝いします。DXは単なるデジタル化ではなく、組織を変革しなければ達成できない場合もありますが、経営者に理解してもらうのが難しいというお話を伺うこともあります。IBMは経営者への交渉もお力になりますので、ぜひご相談ください。

このところ、IBMのお問い合わせ窓口にDXのご相談が増えています。IBMのお問い合わせ用Webサイトから、気軽にご相談いただければと思います。

情報システムご担当者にメッセージをお願いします。

ITが止まればビジネスは成り立ちません。ビジネスを裏から支えられている情報システムご担当者の業務は、とても重要な役割です。しかし今、その情報システム部門の皆さまの業務にも急速な変化が求められています。変化への対応が重要なのはわかっていても、実際に行動を起こそうとしたとき戸惑ってしまう方は多いと思いますが、簡単に始められることもあります。例えば、チーム内の閉じたコミュニケーションではなく、営業やマーケティングなど違う部署の方との積極的なコミュニケーションもその1つです。ちょっとした会話から変化の兆しを早めにつかむことができ、情報システム部門が打つべき対策にいち早く取り掛かれるようになると思います。当社でも、迅速に変化を察知して適応するため、自社内での共創、部署・チームを横断したコラボレーションを重視し、積極的なコミュニケーションによるイノベーションを意識しています。

また、変わるためのベースになるのはスキルです。私のチームのメンバーには「どんなスキルでもいいので年に1つ、何か身につけてみよう」と伝えています。情報システム部門の方にとってのスキルはテクノロジーにフォーカスした内容が多いと思いますが、無料で使えるさまざまな用途のクラウドツールに触れてみることもスキルの向上につながります。テクノロジーだけでなく、業界に特化した知識や会計の資格など何でも構いません。新たなスキルを身につけるための活動は、企業・組織を変化させ今後も継続していくためにとても大事なことだと感じていますので、ぜひ積極的に取り組んでみてください。

日本アイ・ビー・エム株式会社
日本アイ・ビー・エムは、世界175か国以上でビジネスを展開するIBMコーポレーションの日本法人です。基礎研究をはじめ、ビジネス・コンサルティングから、ITシステムの構築、保守・運用まで一貫したサービスの提供や、先進的でより高付加価値なハイブリッドクラウドやAIソリューションの提供を通じて、あらゆる枠を超えて、お客様の企業変革やデジタル・トランスフォーメーションをお客様とともに推進しています。

(「SKYSEA Client View NEWS vol.80」 2021年9月掲載 / 2021年7月オンライン取材)

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