左から、三重県いなべ市 企画部 情報課 課長:伊藤 正紀 様、
三重県いなべ市 企画部 情報課 主事:多湖 智仁 様、
三重県いなべ市教育委員会 学校教育課 課長補佐 兼 指導主事:水谷 妙 様
三重県いなべ市様は、GIGAスクール構想に先立つ2015年、モデル校での1人1台端末の実証事業を経て、2018年には小学校全校の1人1台端末整備を実現するなど、教育に注力してきました。そして、これら学校におけるICT環境の整備・運用管理を市の情報課が担っています。市長部局の情報課が学校のICT環境を管理することになった背景と運用管理の現状を、いなべ市 企画部 情報課の伊藤 正紀 課長、多湖 智仁 主事、いなべ市教育委員会 学校教育課の水谷 妙 課長補佐 兼 指導主事に伺いました。
多湖氏本市は2003年に北勢町、員弁町、大安町、藤原町が合併していなべ市となりました。現在は小学校が11校、中学校が4校あり、令和6年度は3,293人の児童生徒が学んでいます。
伊藤氏合併時、各町の情報担当者で市の情報課を編成しました。そのうち1名が教育委員会に異動して学校のICT運用管理を担当。その後、当該職員の異動に伴って後任を検討している際に、学校のICT運用管理も情報課が担当するという方針が市長より打ち出され、以降は、情報課が市長部局だけでなく学校のICT運用管理も担っています。
これには、本市が早くから教育に力を入れてきたことが背景にあります。情報システムという専門性が高い分野を、市長部局の部署が担当することで、環境整備や保守サポートは情報課が、運用は教育委員会事務局の学校教育課が担うという役割分担が明確になり、ICT活用推進に安心して取り組めるようになりました。
多湖氏現在は、行政や学校に係る全システムの運用・ネットワーク構築、ICT機器のキッティングや保守サポートに至るまで、外部事業者には頼らず情報課の5名で対応しています。
伊藤氏2009年の「スクール・ニューディール」の際に、校務用端末にシンクライアントを採用したのですが、更新時に費用を最適化するため、仮想化は校務支援システムなど一部のみに限定し、校務用端末は物理PCに戻しました。このとき、課題となったのがPC(クライアント)の運用管理です。シンクライアントなら、管理者が各クライアントを一元管理できますが、物理PCを管理するには何かしらのツールが必要になります。そうして、クライアント運用管理ソフトウェア『SKYSEA Client View』を導入しました。
多湖氏その翌年、学校・教育委員会での運用実績を踏まえて行政端末にも『SKYSEA Client View』を導入。現在は、行政端末740台、校務用端末640台を管理しています。そして、今年度から段階的に『SKYSEA Client View』のオプション機能[モバイル機器管理(MDM)]を導入し、1人1台端末(iPad)の管理を行うことにしました。
多湖氏『SKYSEA Client View』は、本市のセキュリティポリシーに準じて活用しており、例えばUSBメモリなどの外部記憶装置の使用は一律に禁止しています。【図1】
伊藤氏前述のとおり、校務支援システムは仮想環境で運用しています。情報課から支給した指紋認証機能付きのUSBメモリのみを「使用可」として、それを使いログインする仕組みを構築しています。ファイルサーバ等も仮想領域にあるため、データの持ち運びは発生しません。
水谷氏より柔軟な働き方が求められる昨今、育児短時間勤務の教員などは自宅に持ち帰って校務を行いたいというケースもあります。そうした場合でも、情報セキュリティ上の不安がなくなったのは大きな変化だと思います。もちろん、仮想環境から自分のPCへのデータダウンロードも制限されています。
多湖氏そのほか、外部から持ち込まれたPCの使用も禁止し、校内ネットワークに接続できないように設定しています。教員の私物PCはもちろん、校内研修の外部講師にも、必要なデータは事前に送信いただくようにお願いしています。
水谷氏市の情報課と学校の教職員との連携がスムーズにできているからこそ、こうした運用も可能なのだと感じています。
水谷氏学校の中で困ったことがあれば、すぐに相談できる環境があるのはありがたいです。
多湖氏学校からの問い合わせは、多い日で20~30件ほどあります。「エラーが発生して作業が進まない」「不審なポップアップメッセージが表示された」「誤ってファイルを削除してしまった」など、重大な障害ではないが、そのままでは業務が止まってしまうというケースが多いです。
伊藤氏問い合わせの際は、「ちょっと見てもらいたい」と言われます。教職員も[リモート操作]で直接端末を操作できることを知っているからです。こちらも口頭で説明をするより目で見て状況を判断できた方が、短時間で的確に対処できます。
多湖氏本市は、広い域内に学校が点在しており、学校に向かうとなると対処までに時間がかかるだけではなく、移動中はほかの業務が止まってしまうため[リモート操作]はなくてはならない機能になっています。
伊藤氏急な対処が必要な場合も、[リモート操作]であれば情報課の職員が管理者権限でログインしてその場で対処可能です。もちろんハードの故障など現地対応が必要な場合は、すぐに学校に向かいます。これは、自分たちで運用しているから対応できることで、特に問題の切り分けなどの一次対応については、かなり早く行えます。
水谷氏教職員はICTリテラシーが高い人ばかりではないので、状況を伝えるだけでも苦労することがあります。何かあれば、情報課に見てもらえる安心感は非常に大きいです。
多湖氏私は、情報課に配属されて4年になりますが、当初は情報課と学校がこれほど近い関係にあるとは思っていませんでした。しかし、児童生徒の「学びの環境」を支えているという実感もあり、大きなやりがいを感じています。
伊藤氏そのほか、プリンタなどのICT機器は順次更新が発生するので、ドライバのインストールには[ソフトウェア配布]を使用しています。また、学校で使うアプリケーションの配信などでも、サイレントインストールができ、教職員の手をわずらわせることがないので重宝しています。
多湖氏重宝という点では、地味ですが便利な機能が[メッセージ配信]です。例えば、校務支援システムに障害が発生し、アクセスしづらいときや、緊急メンテナンスでサーバを再起動するというときに、全端末にメッセージを表示できます。
水谷氏掲示板のような仕組みではなく、校務用端末のデスクトップ画面に直接メッセージが表示されるので、見落とすことがなくて助かります。
伊藤氏アクセスしづらいからといって何度も更新ボタンを押されてしまうと、アクセスが集中してしまい逆効果です。学校からの問い合わせも減るので対応に集中できますし、教職員の不安も軽減できると思います。
伊藤氏本市では、GIGAスクール構想に先立って2015年に、市単独事業として小学校1校をモデル校に指定し、5~6年を対象に1人1台端末の実証を始めました。そして、2016年から段階的に展開し、2018年には小学校の全校、全学年で1人1台端末を実現しています。
水谷氏2015年の実証開始当初から「ICT機器“を”使う」ことが目的化しないよう「ICT機器“も”使う」という方針で、「ICTは児童生徒の理解度の深化のための道具」と位置づけ、活用推進に取り組んできました。
伊藤氏市(情報課・学校教育課)とICT支援員、保守業者が毎月定例会を開催し、学校現場の様子や課題をヒアリングしながら、教職員や児童生徒の負担にならないように改善に努めてきたことが、今実を結んでいると感じています。
多湖氏教育現場の施策に市長部局の部署が直接関わるのは、全国的にもまれなケースだと思いますが、それは、市長の教育に対する思いが強いことの表れだと思っています。
伊藤氏市単独事業の実証段階から、学習者用端末の管理にMDM(モバイル機器管理)ツールを使っています。しかし当時、『SKYSEA Client View』のMDM機能は搭載されたばかりで物足りなさがあったため、実績がある他社製ツールを採用しました。
多湖氏OSメーカーが提供するMDMツールもありますが、児童生徒が端末を安心して活用できる運用管理を実現するには、こちらも不十分だと判断しました。
水谷氏端末の活用に当たって、ルールに従って使うのは当然ですが、それを補完するために、機能的な制限も必要です。また、当初はインストールするアプリを最小限にとどめてスモールスタートし、教職員の要望に応じて随時増やすという方針だったため、それらの対応にMDMツールが活用されていたと記憶しています。
多湖氏制限は児童生徒を縛ることが目的ではありません。例えば、端末の持ち帰りを想定するなら「深夜帯にも無制限で使用できる状態はよくない」といった観点で、制限を施しています。なお、これはWebフィルタリングを使って、指定時間以降のインターネット利用(ブラウジング)を制限するという方法で対応しています。
伊藤氏端末管理においては、特に端末のキッティング(初期設定)の効率化が重要です。端末整備時はもちろんですが、児童生徒の転入・転出でも端末の初期化と新たに設定する作業が発生します。故障対応の際も同様です。
多湖氏年度末には年次更新が必要となりますので、卒業生の端末を初期化して新入学の児童生徒用に再設定するなど、キッティング作業の機会は意外と多いです。これらを外部事業者に依頼せず自分たちで対応することを考えれば、使いやすいMDMツールが欠かせません。
伊藤氏ただ、MDMツールを使い込んでくると、細かな使い勝手のところで「本当はこうしたい」「これができれば」という部分が出てきます。既設のMDMツールは完成度が高い製品だったからこそ、逆に融通が利かないところもありました。
多湖氏そんなとき『SKYSEA Client View』の[モバイル機器管理(MDM)]機能が拡充されるという話を耳にしました。これまでも『SKYSEA Client View』は、ユーザの要望を反映してきたことが評価されている商品です。これから拡充する機能であればユーザの意見を取り入れてもらえるのはないかと期待しました。
伊藤氏実際、開発の担当者に直接会って話す機会を設けてもらい、率直な意見を伝えました。行政や学校では民間企業とは違った事情や背景があるため、その点も加味して検討いただければ、利用者にとってより満足できるものになるのではないかと思っています。
多湖氏最新版のVer.20ではプロキシ設定が改善しています【図2】。以前は構成プロファイルを作成してからインストールするという手順がありましたが、管理画面から設定できるようになり、使い勝手が改善されています。また、普段から行政端末と校務用端末の管理で使い慣れたUIなので、迷わず使えるというのもポイントです。
伊藤氏現時点では、以前導入していたMDMツールより機能が少ないのは確かですが、十分に活用できると判断しました。何よりも大切なのはメーカーの姿勢だと思います。開発者によるヒアリングを通じて、現状に満足せずもっと良いソリューションにしたいという気持ちが伝わってきたので、今後の改善への期待も含めて採択しました。
多湖氏運用開始は来年(2025年)1月からの予定ですが、児童生徒が安心してICTを活用できる環境をつくるためにも、うまく活用していきたいと思います。
2024年10月取材
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