特集
Zoomをビジネスに活用できるかどうかが、事業拡大の鍵になる時代へ

2020年、Web会議システムは、コミュニケーションプラットフォームとして一気に身近な存在となりました。なかでも「Zoom」は急激にユーザー数を増やし、存在感を高めています。そこで、このコーナーではZoom Video Communicationsの日本法人ZVC JAPAN株式会社様に、「Zoom」が選ばれる理由や今後の展望についてお話を伺いました。

ZVC JAPAN株式会社

Zoom Video Communications, Incは2011年創業、米NASDAQに上場している株式公開企業で(ティッカーシンボル:ZM)、本社は米国カリフォルニア州サンノゼにあります。
クラウドプラットフォームを使用したマルチデバイス対応のビデオ会議、音声会議、チャット、Webセミナーなどのビデオコミュニケーションサービスを企業向けにご提供しています。

佐賀 文宣 氏 カントリーゼネラルマネージャー

2019年2月にZVC JAPAN株式会社へ入社以前は、2013年からヴイエムウェア株式会社でパートナービジネスを統括していました。2006年から2013年にかけては、シスコシステムズ合同会社へ入社し、同社が買収したWebexのパートナー開拓に携わりました。1992年に日本アイ・ビー・エム株式会社へ入社し、大和研究所にてThinkPadの開発エンジニアへ配属。その後は2006年まで、同社PC部門で日本およびアジア太平洋地域担当のプロダクトマーケティングやパートナーセールスへ携わりました。
1992年に北海道大学工学部修士課程を修了しています。

重要な使命は、Zoomを介して
企業のお客様と個人のお客様をつなぐこと

貴社の設立から現在に至るまでの経緯をお聞かせください。

当社は、現在CEOを勤めるエリック・ユアンが、2011年にアメリカのサンノゼで創業しました。彼は、もともと後にシスコシステムズに買収されるWebEx CommunicationsでWebEx(現:Webex)というWeb会議のソリューションを作った4人の中心的なエンジニアの1人です。買収後、大企業ではこれまでのようにお客様の声を製品に反映することは難しいと感じるようになり、純粋にお客様に喜ばれる製品を作りたいという思いで退職。創業後2年間は開発に専念し、ゼロからシステムを書き直して作ったのが「Zoom」です。2013年からビジネスを開始し、2019年4月にはNASDAQに上場しました。日本で正式に法人を立ち上げたのは、2019年7月です。

最近まで、特に日本ではWeb会議システムのことを枯れたテクノロジーだと思われていた方が多く、昨年まではなぜいまさらこの分野に参入するのかと質問を受ける場面が多々あり、もはやWeb会議システムには技術の進歩がないとまで言われることもありました。しかし「Zoom」は年間300以上の新機能を発表し、急速に品質を向上させています。今、Web会議システムの市場はメーカー同士が競い合い、さまざまな工夫をして製品がどんどん便利になっていく、ユーザーの皆さまにとって非常に良い状況が生まれています。

貴社が急成長された要因についてお聞かせください。

もともと今の規模になることは想定していましたが、到達するまでには4年くらいかかると予想していましたので、ここまで急速に立ち上がったことは想定外でした。ある調査会社が、Web会議システムの市場規模は300億というデータを公表していますが、その数値を基に4年計画で立てた売上目標を1年で達成できたのは、新型コロナウイルス感染症対策のための緊急事態宣言の影響が大きかったことは間違いありません。

私が当社に入社したのは2019年の2月ですが、その当時から「Zoom」は他社の製品に比べてつながりやすく、ビデオ表示の画質がきれいでストレスなくやりとりできることに驚いたのを覚えています。ビデオ表示をONにすると通信データ容量が増えるため、以前のWeb会議システムは途中で会議が止まってしまうことが当たり前になっていました。そのため、最初のあいさつが終わったらビデオ表示をOFFにして、お互いの表情を見ることなく画面に映ったパワーポイントを見ながら会話をするのが自然の流れに。顔が見えなければ相手がどれくらい理解してくれているのかわからず、せっかく顔を見て話せるはずのWeb会議なのに会話がしづらいという経験をされた方もいらっしゃると思います。「Zoom」は49面でもスムーズな画面表示で、円滑なコミュニケーションが可能です。こういった基本性能の高さが選ばれている理由ではないかと考えています。

アメリカで普及していたWeb会議システムが、
日本では長い間普及しなかった理由についてお聞かせください。

アメリカには30年前から電話会議の文化があり、電話回線を使って複数の人が集まる会議が行われていました。約20年前にWeb会議のソリューションが登場したときにも、それまで使用していた電話会議に、顔が見える機能が追加されたくらいの感覚で、自然にWeb会議が浸透していきました。

日本では、電話会議がそれほど普及しなかったため、相手の顔を見ない会議の習慣が根づきませんでしたが、その代わり本社と支社など離れた拠点間の会議室をつなぐ目的でビデオ会議が普及していきました。その後、出張先や自宅からも本社で行っている会議に参加するための用途として、Web会議システムが必要とされるようになりました。Web会議システムのメーカーもそのような単なるビデオ会議の置き換えにすぎない使い方を提案していましたので、日本ではWeb会議の市場がなかなか広がりませんでした。

そこで「Zoom」は、ちょっとした打ち合わせに使っていただけるよう、Web会議に参加するハードルを下げることに注力しました。例えば対面で行う会議の前には、事前に4~5人で集まって会議の段取りの打ち合わせをしたり、会議をスムーズに進行するための根回しなどのちょっとした情報交換をする場合があります。これまで直接顔を合わせて気軽にやっていた打ち合わせを、わざわざWeb会議でやるのは面倒だと思われる方もいらっしゃいます。しかし、複雑な設定が不要で思い立ったらすぐにつながる「Zoom」であれば、対面で行っていたちょっとした打ち合わせでも気軽に使っていただけると思います。

もちろん使いやすさだけでなく、企業のお客様がWeb会議に求めるセキュリティ機能も備えていますし、イベントなど多くの人がつながるZoomビデオウェビナーライセンスなど、用途に合わせて選べるビジネスライセンスを豊富に取りそろえています。学校向けにはEducationライセンスや、まずは無料でスタートできるプレミアムモデルもご提供しています。

また、PCがなくてもスマートフォンで会議に参加できるなど、早くから個人のお客様を意識した製品開発を行ってきました。通常、Web会議システムは、企業向けの製品とコンシューマ向けの製品に分けられますが、「Zoom」はどちらのお客様にも同じ製品をご提供しています。企業が「Zoom」を使ってコンシューマ向けのサービスを提供しようとする際にも、別のツールを用意する必要はありません。1つのプラットフォームを両者にお使いいただけることで、企業と個人のお客様をつなぐ役割が果たせているのではないかと思っています。

「Zoom」には、ビジネス用途には不要と感じる「ビデオフィルター」機能がありますが、
この機能を搭載している理由についてお聞かせください。

ビジネス用途だけを考えると、「ビデオフィルター」は何に使うのかと悩んでしまいますが、コンシューマ用途を想定した機能だと言えば納得いただけると思います。ここからも「Zoom」が企業とコンシューマの両方に同じ機能を提供している製品であることがわかると思います。「ビデオフィルター」をビジネス用途で活用されることはほとんどないと思いますが、「スタジオエフェクト」機能はビジネス用途でも活用いただける場面があると考えています。例えば、自宅からWeb会議に参加する場合、そのためだけにメークをするのが面倒だと感じられている女性は多いのではないでしょうか。「スタジオエフェクト」で、眉毛やリップカラーを選べば、ちょっとしたメークの代用として活用いただけると思いますので、ぜひお試しください。

「スタジオエフェクト」を選択すると眉毛や髭などのエフェクトが表示されます。

当社はビジネスとコンシューマをつなげることが非常に重要だと考えていまして、2020年10月に開催したグローバルなバーチャル・ユーザーカンファレンス「Zoomtopia」でも1つのトピックスとして打ち出しました。企業がビジネスを拡大するためにはBtoBだけでなくBtoC、そして開発者「Developer」を対象としたサービスBtoDの場面でも、お客様がその先のお客様に提供するサービスに容易に組み込める技術に投資をして、製品を拡張していく予定です。これまで、オンラインでの商談や打ち合わせで、ビジネスツールを使った説明が必要な場面になると、「Zoom」の画面共有で画面を提示していたと思います。ビジネスツールとの連携により、ミーティング中に「Zoom」からアプリケーションを起動し操作できるようになるなど、使い勝手が格段に向上します。現在、皆さまがすでに導入されているさまざまなビジネスツールとの連携が進み、今後はさらに連携製品のラインナップが増えていきます。ビジネスに「Zoom」を取り入れることで、皆さまの事業拡大のチャンスにもつながると考えています。

都市部のビジネスだけでなく、地方でも可能性は広がっています。例えば、地方では後継者不足などの問題から農地が余っています。その土地を有効活用するために、企業を誘致しようとしている自治体は多いと思いますが、そのなかにはITを活用して先進的な取り組みをされている自治体もあります。遠く離れた場所にいる企業担当者にドローンで撮影した映像を「Zoom」で中継し、農地の説明をすることで契約に結びつけるなど、メーカーの私どもが想像もしていなかった活用が始まっています。直接農地に足を運ばなくても「Zoom」で送られてくる農作物の生育状況がリアルタイムで確認できたりと、会議以外の用途にも活用できることがわかりました。

私どもは、これまで「Zoom」がオフィスワーカーのためのツールだと考えていましたが、コンシューマに対するサービスへの活用を模索し、さまざまなチャレンジをされているお客様を見て、これまで難しいと思われていた分野にもテレワークを広げていける確信を持ちました。お客様の取り組みから、私どもメーカーが学ぶこと、教えていただくことがたくさんあります。「Zoom」の高画質で滑らかな画像なら状況がリアルに伝わるため、今後は災害現場など人が立ち入ることが難しい過酷な現場での活用も進んでいくのではないかと思います。

どうすればテレワークを導入できるのか、
一緒に考え取り組んでいきます

予定されている新機能についてお聞かせください。

2020年4月の緊急事態宣言では、会社の代表回線に掛かってくる電話の対応のために交代で誰かが出勤する対応を行った企業が多かったと思います。2020年11月に発表した電話機能を活用すれば、会社に出勤しなくても代表回線に掛かってきた電話に対応できます。企業の電話は、実際には10本くらいしかない回線を、PBX(Private Branch eXchange)という複数の電話回線を管理できる構内交換機によって複数の電話機に割り振り、実際の回線数以上の台数で外線を受けることができるようになっています。この役割を「Zoom」のミーティングと同じクラウド上のサーバーで提供できるようになります。これまで直接会う以外のコミュニケーション手段は、電話などさまざまなツールを活用していたと思いますが、「Zoom」に絞ることができるようになれば、離れていてももっとシンプルに人とつながることができるようになるのではないかと考えています。

2020年の3~4月に「Zoom-Bombing(Zoom爆弾)」と呼ばれるZoom会議を妨害する犯罪行為が話題になりました。「Zoom」には会議の主催者が参加者を確認して承認する機能がありますが、これをご存じない方が多かったことも被害が多発した一因だったのではないかと考えました。そこで、セキュリティをさらに強化するため、承認機能のアップグレードを予定しています。自宅のモニター付きインターホンのように、入ってこようとしている人の顔を確認してから会議への入室可否を判断できるようになるため、これまでよりも誰が会議に入ってこようとしているのかがわかりやすくなります。

「Zoom」が中国の製品だと勘違いされ、
警戒している方もいらっしゃることについての見解をお聞かせください。

世界には中国に対して警戒心を持っている方が多くいます。そのため、CEOのエリック・ユアンが中国出身というだけで不安に感じられるのもわかります。しかし、彼はアメリカ人です。アメリカの著名な企業のCEOにはインド出身の人物が数多くいますが、中国出身の人物がCEOを勤めていることを特別視するのは、ほかの意味があるのではないかと感じています。「Zoom」を開発しているのは間違いなくアメリカの企業です。「Zoom」を中国の製品だとか、中国とつながりがあると感じられている方の多くは、中国出身というキーワードだけで中国共産党と結びつけてしまったり、人種の話が混在してしまっているのではないでしょうか。

また、2020年に中国企業が運営する「TikTok」がアメリカ国内でダウンロードを禁止されるかもしれないという報道がありましたが、そういった情報と混同されている方もいらっしゃるのかもしれません。「Zoom」はアメリカの会社で、CEOが生まれた場所が中国だっただけの話です。中国共産党とのつながりはまったくありませんし、情報を提供するなんてことは絶対にあり得ません。

読者の皆さまにメッセージをお願いします。

Web会議システムを「Zoom」に切り替えたお客様からいただく感謝の言葉で多いのは、「切り替えたことで、従業員からの問い合わせが減った」です。つながらない、途中で接続が切れたなどのトラブルが少ないので、情報システム部門の方の負荷軽減になります。また、通信が切れてしまった場合にも、Wi-Fi環境の問題なのか、PC上でほかのアプリケーションがCPUをかなり使っていたことが原因なのかダッシュボードを確認すればわかるため、トラブル発生時の原因究明に時間がかからず、運用が楽になったと言っていただきます。テレワークには、コミュニケーションツールが欠かせないため、製品の選定にあたっては、妥協せずしっかり選んでいただきたいと思います。

また、テレワークを取り入れた働き方は、一部のオフィスワーカーだけのもので、医療関係や介護施設、スーパーや宅配業など日本人の大半を占めるエッセンシャルワーカーの方々は、いかなる場合でも現場に通い続けなければならず、リモートワーク格差が生じています。私たちがテレワークできるのは、エッセンシャルワーカーの方々に支えられているからで、この状況は改善しなければなりません。社会を支えるエッセンシャルワーカーの方々に、10%でも20%でも一部の業務をテレワークで対応いただける取り組みの検討が必要です。また、台風のようなあらかじめわかっている悪天候時には、オフィスワーカーの方々は迷わずテレワークを選択していただきたいです。それにより公共交通機関や道路の渋滞が予想される場面でも、本当に現場に赴いて働かなければならないエッセンシャルワーカーの方々がスムーズに現場に行ける状況を作れます。テレワークの導入には勇気がいりますが、テレワークができないと思っていた業務でも、発想の転換と勇気があれば取り組めるはずです。そのために少しでもお役に立てればと思っていますので、どうすれば自組織へのテレワークを提案・導入できるのか、ぜひ、一緒に考え取り組んでいけたらと思います。

(「SKYSEA Client View NEWS vol.76」 2021年1月掲載 / 2020年11月オンライン取材)

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