マイナンバー制度の運用開始は、2016年1月から順次行うことになっていますが、その時点で全従業員分のマイナンバー収集が終わっている必要はありません。2016年分の税の手続きは年末調整で行いますので、2017年の確定申告の時点までに揃っていれば問題ありません。全従業員分を一気にまとめて収集することが難しい場合には、数か月単位でスケジュールを組むなど計画的な収集を実施してください。ただし、パートやアルバイトの方、2016年1月1日以降に退職される方などについては、すぐにマイナンバーが必要になりますので注意が必要です。
また、外部講演者などへの謝礼の支払いについてもマイナンバーが必要です。これまでは、担当社員がそのまま支払いの窓口となるケースが多かったようですが、外部の方のマイナンバーを扱うことになるため、支払いに関しては、経理や人事部門のマイナンバーを扱っている担当者にすべて一任するなど、ルールを変更されようとしている組織もあります。アルバイトやパートの方、謝礼の支払いが多い組織は早めにルールの整備を進めてください。
退職した従業員のマイナンバーの削除については、雇用契約書や社会保険などマイナンバーを記載する書類それぞれに適用される法令ごとに保存期間が定められていますので、その期間が経過すれば廃棄しなければなりません。「廃棄」という言葉を使っていますが、マイナンバーだけを削除していただけば問題ありません。図5
「漏えいして不正に用いられるおそれがあると認められる場合に限り変更することができる」ことになっていますので、カードを紛失しただけでは、マイナンバーは変更されない予定です。紛失したのが「通知カード」だった場合、カードに記載された番号だけでは諸手続きはできない仕組みにしていますし、「個人番号カード」の場合は、写真がICチップにも記録されており、ICチップを偽装しようとすれば壊れる仕組みを施すことで、なりすましの防止を図る予定です。「個人番号カード」を紛失した際には、総務省が24時間のコールセンターを設置しますので、連絡をいただければすぐに使用停止できます。クレジットカードと同様に、紛失時はすぐにコールセンターに連絡してください。
「個人番号カード」のICチップや「マイナポータル」は、民間でも使えることになっていますので、法律の改正なしに利用範囲を広げていけます。しかし、特定個人情報の漏えいが懸念されるため、マイナンバー自体の利用範囲は、マイナンバー法に記載されている事務以外には認められておらず、追加するためには法改正しなければならないという非常に厳しい制度です。
社会保障の手続きに必要な書類のうち、マイナンバー制度の運用開始後に提出が不要となるのは、住民票・所得証明書・課税証明書です。家族関係を証明するために戸籍謄本や戸籍抄本の提出を求められる手続きは多いですが、戸籍事務についてはマイナンバーを使用しないことになっていますので、マイナンバー制度の運用開始後も必要になります。ただし、法務省が昨年2014年10月に立ち上げた研究会では、マイナンバーの利用についての検討を始めています。図6そこで結論が出れば戸籍事務もマイナンバーを使用することになるかもしれません。戸籍事務にマイナンバーを使用することになれば、旅券(パスポート)申請時の旅券事務についても検討されていくことになるでしょう。
銀行などの金融機関には、自治体や税務署から税務調査や社会保障のために預金者の資産調査が入ることがあります。マイナンバーに預貯金口座が紐付けば、これらの調査の際に、より確実な結果が得られます。しかし、預貯金口座への付番についてはさまざまな意見があるため、口座名義人に対して、銀行から求められてもマイナンバーの提出を義務付けまではしない内容の法案となっています。今後、理解が広がれば義務化を含めた検討が行われることになると思います。
医療機関における利用については、電子カルテの患者IDなどはマイナンバーとは別に番号を設けるべきだという意見があり、今のところマイナンバーの使用は予定されていません。しかし、自治体や健康保険組合ではマイナンバーを使用します。そこで、保険者間でメタボリック健診のデータを連携したり、引っ越し先の自治体に予防接種のデータを引き継げるようにするといったことが、改正案に含まれています。さらに、厚生労働省は2017年7月以降、「個人番号カード」のICチップを活用して、健康保険証の機能を取り込むことを検討しています。これにより、健康保険証の不正使用防止も期待されます。
マイナンバー制度の導入によって、ICTのさらなる利活用の進展が期待されています。現在の法律ではマイナンバー自体は行政分野でしか使わないことになっていますが、「個人番号カード」と「マイナポータル」は、マイナンバーを使用しない民間での活用を検討できることになっています。
図7は「マイナポータル」の利活用イメージです。「公的個人認証」と記載している部分には、行政や年金機構のマイナンバー関係の情報が閲覧できるので、ID・パスワード以外に、ICチップの電子証明書がなければアクセスすることができない厳格な認証を必要とします。「電子私書箱」と書いている部分は民間での活用を想定しており、ID・パスワードだけでアクセスできる予定です。毎年秋から年末にかけて生命保険会社から届く生命保険料控除証明書のはがきが電子データとして届くことで、今よりも手続きが簡易化できると期待されます。この「電子私書箱」は、データが確実に相手に届けられたことを証明するのが難しいようですが、すでに日本郵便が技術的な検討を始めています。
政府として、『世界最先端のICT社会の実現』を目指していくこととしています。マイナンバーの導入をきっかけにした「個人番号カード」と「ポータルサイト」は、それを実現するための中核とも言えます。
これまで経験したことのないマイナンバー制度の導入を目前に控え、不安に感じていらっしゃる方も多いかと思いますが、マイナンバーを安全・安心にご利用いただくために、制度面とシステム面の両方から個人情報を保護するための措置を講じています。マイナンバー制度に関する不明点がございましたら、ぜひ、マイナンバーコールセンターへお問い合わせください。