ソフトウェアパテントへの視点ー次世代をとらえよ

特徴あるソフトウェアという視点でみると、国内の業界には種々の問題がある。その一つが開発の視点だ。例えばソフト特許の日米比較では、日本の取得件数は米国の1/3から1/ 2にすぎない。彼我の差は日本のソフト開発の遅れや視点のずれなどの問題点を浮き彫りにしている。

国際競争力の弱さは、人件費が高いこと、言語バリア、ソフト技術への理解不足等々に起因する。ITが物理的・時間的距離をゼロに近づけたことを考えると、例えばインドはもはや海外とはいえず、人件費問題の突破口となるだろう。

過去のソフト開発の多くは、従来の各種サービスや作業等をコンピュータ上で処理するためのユーティリティ技術あるいは改良技術にすぎない。この開発視点のずれがソフト特許件数の低さ、国際競争力の低さとなって露呈していると思われる。以上の問題点を踏まえて、次世代ソフト開発に向けた視点を探ってみる。

まずは既存のマニュアル作業をアルゴリズム的に記載してコンピュータシステムで処理するといった代替的開発から一歩踏み出し、次世代を視野に入れた開発を試みるべきである。例えば国別のビジネス環境や法律環境を配慮したERP(統合基幹業務システム)構成は国際的な事業展開を行ううえで優位性が見込まれるだろう。必要なことは、技術的進化を前提としたビジネスモデルやサービスを想定し、それらを手元に引き寄せてベースとなる基幹ソフトを開発し、特許取得することである。こうして確保したソフト特許はビジネスモデル特許としての色合いが濃く、これをベースにユーティリティに応じたソフトが分化し魅力ある商品となるのである。

1989年頃から私はビジネスモデル特許の開発と取得を提唱してきた。競合企業に特許を押さえられると商売ができなくなるという危機感に煽られ、わが国でブームとなったのは2000年前後である。この時もオフラインのビジネスをオンライン化するだけの出願内容に、各社の戦略性のなさを痛感した。当然権利化率は低いものだった。この結果、真の開発力を問いただすことも、戦略のなさを反省することもなく、権利化を目指してモデルをブラッシュアップする動きに逆行してビジネスモデル開発は後退した。ブームが実体として定着することなくブームのままで消えたのは、過去のベンチャーブームと同じ経過である。

小さな着眼から出発し、複数のソフトをマッシュアップしながら新たなビジネスモデルを構築し、バージョンアップを重ねて世界に通じるまでに至ったケースが多数みられる。

時に掛け算は相乗効果を発揮し、優れたビジネスモデルやビジネスチャンス を生み出す。中国のB2B企業アリババ(Alibaba.com)が香港市場に踊りだし、 グーグルを上回る資金調達が話題となった。このような企業が出現しない日本 社会への警鐘といえそうだ。

一般にソフトといえばサービス業務をウェブ上で処理する機能が多いが、先進型機器を制御するインストール型ソフトも当然考慮されるべきだ。多くのソフトハウスは機器開発メーカーから受注し、その仕様に基づいてソフト製作に当たる。しかしこの分野においても明日の新たな機器や装置を視野に入れ、その概念開発とそれをどう制御するかという議論がなされるべきだ。こうしたプロセスから将来の機器や用途を着想し開発にフィードバックさせるとともに特許権化することで、機能起因型のシステムや機器つまりソフトからみたハードの市場を確保できるだろう。

ハードとソフトの主従関係を逆転しソフト先行で新たなものをつくり、あるいは新たな用途に適用して、さらにこれを制御するソフトを開発するスタンスが発生する。これらをさらに発展させると、特許権化によって独創性を誇るソフトにもブランド戦略が必要となる。

ソフトウェア特許というコアに商標登録ブランドを付したレンタルビジネスによって一つのパッケージ商品としてソフトウェアハウスが市場に出すスタイルである。これも今後の一つの方向であろう。


(BCN 2007年12月3日号から抜粋)

酒井英之氏

柳野国際特許事務所 所長・弁理士
(株)ノスクマード・インスティチュート 代表取締役
柳野 隆生

和歌山県生まれ、関西大学法学部卒
1970年から日本におけるベンチャー研究と実務に入り、1975年ベンチャー支援用の特許事務所を開設。
1988年、ベンチャー企業、一般企業の研究開発型企業化へのコンサルティング会社、(株)ノスクマードインスティチュートを設立し、代表取締役に就任。最近では、ベンチャーの戦略提携や市場開発用オープンマーケットとベンチャー起業家や若手・二世経営者育成のための柳野塾を主宰。
日本ベンチャーの研究開発や法的問題への対応から、そのマーケッティング、戦略提携、株式の公開、ベンチャー型人材育成等、ベンチャープロデューサーとして、ユニークな活躍を行う。

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